資本論用語事典2021
『資本論』の有機体系 Organismus 準備テキスト
ヘーゲル『自然哲学』 (第3版1830年)
加藤尚武訳 岩波書店 1999年発行
資本論ワールド 編集部
1.
ヘーゲルの「自然哲学」は、『エンチュクロペディ-』)(初版1817年,第3版1830年)第2篇に編集されています。『西洋哲学史』のシュヴェーグラーが簡潔に次のように要約しています。
「ヘーゲルの体系は、知識の行程によって三部門にわかれる。(1)純粋な、あらゆる精神的および自然的生命の根底にある(非時間的に先だつ)普遍的概念すなわち思考規定の発展、絶対者の論理的展開――論理学。 (2)実在する世界すなわち自然の発展――自然哲学。 (3)観念的な世界の発展、すなわち法、道徳、国家、芸術、宗教、学問のうちで自己を実現しつつある具体的な精神の発展――精神哲学。 ――体系のこの三部門は同時に、ヘーゲルの絶対的方法の三つの契機である肯定、否定および両者の統一を表現している。絶対者は最初は素材をもたぬ純粋な思想である。次にそれは純粋思想の他在、それが時間と空間のうちで分散したもの、すなわち自然である。第三にそれはこのような自己疎外から自分自身へ帰り、自然という他在を克服して、自分自身を知る真の思想、すなわち精神となる。」
21世紀の現在からヘーゲル哲学を振り返るとき、その特徴はヘーゲル時代の「思考規定 (思考形式の枠組み) の発展」を体現しているものと言えます。弁証法をあらゆる領域に駆使した広大な知性は、今日でも汲みつくせない大海原の震源です。
ところで、マルクスはいったい”ヘーゲルの根源”の何処を継承したのでしょう。 資本論ワールドでは、尽きないヘーゲル海原とマルクスの接点を探ってゆきます。そこで、『資本論』の科学史を参照すると・・・・
1. カント批判哲学との継承では、第1部力学 A 空間と時間 「a 空間」が参考になります。また、
2. 弁証法では、B 物質と運動 においてヘーゲルの基礎概念が克明に展開されています。
3. 『資本論』のElementarform/原点から序列・体系では、「第3部 有機体の物理学」が有意義です。
4. また、『資本論』 第3章 「商品の変態 Die Metamorphose der Waren」は、『自然哲学』§341、343(形態変容Metamorphose )、さらに、有機体-ヘーゲル”細胞生命”の基礎形式の「ゲル・ Gallert」と『資本論』のGallert(膠状物)の結束点を伺い知ることができます。
これら一連の19世紀科学を望見して、はじめてマルクスの「叙述の形式」に辿りつけるのでしょう。
2.
では『資本論』の科学史をスケッチ風にみると、特徴的な形式(叙述の仕方)が浮き彫りになってきます。、
A: 「歴史的に、論理的」な叙述形式の展開過程が実証されます。
B: マルクスが活動した西洋の時代風景-19世紀の科学が多方面にわたっています。
まず A:の論理展開として、
1) Element (元素, 要素)の情報原理が展開され、ヘーゲル哲学・論理学の形式 Form を準用しています。
2) マルクスはForm・形式 を、”Elementarform の形式化(表現の型式:Ausdrucksweise)” として創始しました。
つぎに B:当時の科学言語で、『資本論』の論理展開の基軸としています。いくつかを列挙すれば、
① Element / 元素は, 古代ギリシャ思想やヘーゲル『エンチュクロペディ-』§286 c元素の過程など。
② Gallert / 膠状物は, 19世紀のドイツ生物史・細胞学用語。コロイド colloid のドイツ語
③ Gleichung / 方程式は, デカルト数学や17世紀方程式の代数的解法など。
④ Fetischcharakter / 物神的性格・フェティシュは, 「18世紀、ド・ブロスのフェティッシュ宗教批判からの転用」
⑤ W-G-W, G-W-G / 商品・貨幣の流通形式, は有機化学の化学式・構造式の表示モデルから援用。
⑥ Metamorphose / 変態は, ゲーテ形態学とメタモルフォーゼから応用。
このように、マルクスはドイツ語圏を先頭に、西洋各地の19世紀科学史を準用しています。こうした論述方法による論理学の組立てが、”ヘーゲルの弟子”を自認しているものと推察できます。
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ヘーゲル 『自然哲学』
第1部 力 学
第2部 物理学
第3部 有機体の物理学
目 次
緒 論
第1部 力 学 (§253-271)
A 空間と時間
・a 空間
・b 時間
・c 場所と運動
B 物質と運動
・a 慣性的物質
・b 衝突
・c 落下
第2部 物理学 (§272-336)
A 普遍的な個体性の物理学
・a 自由な物理的物体
α 光
β 対立の天体
γ 個体性をもつ天体
・b 元素
α 空気
β 対立の元素
γ 個体的元素
・c 元素的な過程
B 特殊な個体性の物理学
・a 比重
・b 凝集状態
・c 響き
・d 熱
C 統合された個体性の物理学
・a 形態
・b 個体的な物体の特殊化
α 光との関係
β 特殊的な物体性の側にある区別
γ 特殊的な個体性の統合―光
・c 化学的な過程
α 合一
1 ガルヴァーニ電気
2 火の過程
3 中和化、水の過程
4 統合された過程
β 分離
第3部 有機体の物理学 (§337-376)
A 地質学的な自然
B 植物的な自然
C 動物の有機体
・a 形態
・b 同化
・c 類の過程
α 類と種
β 性関係
γ 個体の病気
δ 個体のおのずからなる死 ・・・・・
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