2016年


      2月創刊号
  資本論翻訳問題




  『資本論』 翻訳キーワードについて (一覧表)


 「科学の始まりは、分類から」と言われています。私たちが、何かを考えたり、あるいは読書や学問をする
とき、言葉によって思考を整理しながら分類操作を行います。
このとき、同じ「物・モノや事柄・コト」をその
たびに「違う言葉」で表現すれば、当然混乱を招きます。

 
なぜか『資本論』の業界では、以下のとおり同じマルクスのドイツ語が、出版社や翻訳者によってかくも
違った日本語に変換されているのです。

しかも翻訳にあたり、ほとんどの訳者が「なぜその言語を選択したのか」なんら説明もなく、素通りしています。


 
試しに『資本論』の冒頭を見てみましょう。

 「資本主義的生産様式の支配的である社会の富は、「
巨大なる商品集積」として現われ、ここの商品は
この
富の成素形態として現われる。したがって、われわれの研究は商品の分析をもって始まる。」(岩波書店・向坂訳)
 
これに対して
 ・
巨大なる商品集積 → 巨大な商品の集まり、 巨大な商品の集合体、 膨大な商品集成
 ・
富の成素形態 → 富の基本形態、 富の要素形態、 富の原基形
 
 
それぞれに、何らかの意味表示を行っているものと推測されますが、厳密な差異・ニュアンスがどのように
 違ってくるのか,までは、「読者まかせ」のようです。

 
言葉は文化・伝統をそれぞれ背負いながら現代社会に伝わってきています。「他人まかせ」で済まされる
 場合もありますが、問題は『資本論』の随所に、キーワードとなる言語について、翻訳語が違ってくる事です。

 
過去44年間に出版された『資本論』のキーワードについて、調査を行ってみました。
 驚きを持つと同時に、果たして共通理解が得られているのか、大変気がかりです。


 
そこで翻訳語の主なキーワードの一覧表を作成してみました。
 
先の資本論交流会で、なぜ、一方通行の議論に終始してしまったのか、
その理由の一端が分かったようです。

交流会の報告者に見られる用語の表現は、各人手持ちの『資本論』から生じていたのです。

こうして起こるべくして起こった事態であり、混迷であったと言えます。


 以下、出版会社翻訳者、出版年月日、主なキーワードの一覧です。
*出版年月日 :
翻訳者
 岩波書店
1967.10.5 : 向坂逸郎、 大月書店1972.3.10 : 岡崎次郎、
 
    河出書房新社
1969.8.30 : 長谷部文雄、 中央公論1973.2.28 : 鈴木鴻一郎ほか
     新日本出版社
1982.11.15: 資本論翻訳委員会、 筑摩書房2005.1.20:今村仁司ほか、
     日経BP社
 2011.12.5:中山元


『資本論』第1章 第1節~第3節



              キーワード 翻訳語 一覧  

                      
              
下線個所をクリック(成素形態、方程式、化身、変態)



  岩波書店・文庫頁 
         
 成素形態   p.67  背 理 p.70  方程式 p.71   妖怪のような  p.73  膠状物 p.73 
 ドイツ語  Elenmentarform  
 Contradictio in  adjecto

  Gleichung  gespenstisch  Gallerte
 英語版  unit  
Acontradiction
  in terms

 Equation  unsubstantial  Congelation
 大月書店  基本形態  形容矛盾  等 式  まぼろしのような  凝固物
 河出書房新社  原基形態  形容矛盾  方程式  幻影のような  凝結
 中央公論社  基本形態  形容矛盾  等 式  とらえどこのない  凝結物
 新日本出版社  要素形態  形容矛盾  等 式  まぼろしのような  凝固体
 筑摩書房  要素形態  形容矛盾  等 式  幽霊じみた  凝結物
 日経BP社  要素形態  形容矛盾  等 式  幻想的な  凝縮物

<注>:岩波書店向坂訳は、膠状物を他の箇所では「凝結物」とも訳している。

岩波書店・文庫  物神的性格p129  化 身p122  変 態 p.185  化 体 p.192  商品種 p.99
 ドイツ語  

Fetischcharakter


 Inkarnation  Metamorphose  Transsubstantiation  Warenart
 英語版  Fetishism
 Incarnation  Metamorphose  Transubstantiation  ・artを省略している
 大月書店  呪物的性格  化 身  変 態  化 体  商品種類
 河出書房新社  物神的性格  化 身  姿態変換  実体的転化  商品種類 
 中央公論社  物神性  化 身  変 態  化 体  商品種類
 新日本出版社  物神的性格  化 身  変 態   化 体  商品種類
 筑摩書房  フェティシュ的性格  受 肉  転 身  実体変容  商品種類
日経BP社  フェティシュな性格  受 肉  変 身   実体変化  商品種類


 ■一覧表をご覧になっての感想はいかがでしょう。

これから『資本論』を読もうと考えている皆さんは、どの出版社を選択しますか?翻訳者によって、『資本論』の
読み方、理解が変わってしまう!?―という驚くべき事態に実は遭遇しています。どうしてこんなことになるので
しょうか?他の人文・社会科学書等も同じようなのでしょうか。ひと昔前の出版界では、訳文に見解の相違がある
場合、良心的に翻訳者「注」のなかで「訳語の注意事項」を記すことが多くありました。
 しかし、上記「キーワード一覧」に見られるように、『資本論』業界では、どの出版社・翻訳者もキーワード語に
注意事項を記してはいません。こうした「読者まかせ」のまま半世紀が経過しているのです。
現状のこうした翻訳文化・翻訳乱世に対して、異議申し立てを行ってゆくことも『資本論』ワールドの大きな仕事、
大きな軸足のひとつです。

毎月の「資本論HP月報」誌上で、「翻訳文化から一歩前へ」進んでゆきましょうと、皆さんと一緒に
「日本語を私たちの手に」が目標です。

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 <3つのキーワード>内容説明 ★クリックしてください 

  1. 成素形態 : Elementarform、 2. 変態 : Metamorphose、 3. 化身/受肉 : Inkarnation


 お問い合わせは、『資本論』ワールド編集委員会 メール宛て