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→ コラム1. 比例と方程式
比例関係 と 方程式論の歴史的形成過程 <3>
-ヘーゲル比例論と価値方程式構築の道のり-
■ 目 次
1. 比と比例・・・未知数を解く・・・
2. 方程式論と解析幾何学の歴史的経緯
3. 解析幾何学の確立
4. 「デカルト革命」への道―「謎・未知数」の解法としての比例・方程式―
5. 村田全著 『数学と歴史のはざま』 代数学と方程式の解法
6. 価値方程式の形成過程ー比例と方程式
第2部 ヘーゲル論理学「比例論」と資本論の価値方程式
比例関係 と 方程式論の歴史的形成過程 <3>
序 論
はじめに
マルクスによる『資本論』価値方程式の形成にいたる道のりは、西洋思想の伝統として「比例論」が、過去2000年を超える歴史が横たわっています。価値形態論の理解に欠かせない西洋思想の伝統を紹介してゆきます。
形成過程の説明方法は、恒例に従い資本論ワールド編集委員会がお薦めできる文献を中心に行います。外国文献が主となるため、翻訳者による日本語が、訳者ごとに微妙な差異を生じていますのでご注意をいただきたいと思います。また、比例や方程式など数学関連の用語が多く出てきますが、現在「マルクス用語事典」(『資本論』の科学史ハンドブック)を準備中〔2019資本論入門4月号からすでに開始〕ですので、後日参考資料として参照をお願いする予定です。
紀元前6世紀から19世紀のヘーゲルまで西洋史の2000年に及ぶ「比例論」の歴史をたどってゆきます。
そして『資本論』・「価値方程式」に至る西洋文化・伝統の蓄積を感じ取っていただければ幸いです。
1. 比と比例・・・未知数を解く・・・
<① 比>
数または量でaとbという二つのものの間に、大きさの関係を表わす場合:比。
比a:bは、2つの数量aとbの割合を表わしたもので、「aとb」を比の項といい、記号「:」の前にある項aを前項、 後にある項bを後項という。
<② 比の値>
比の前項と後項に同じ数をかけても、前項と後項を同じ数でわっても、比の値は変わらない。 この性質を利用して、比をできるだけ小さな整数の比になおすことを、「比を簡単にする」という。
<③ 比例式>
数または量が4つの場合(a、b、c、d)で、2つの比 a:b と c:d が等しいことを表わす式 a:b=c:d を比例式という。 このとき、比例式の内側にある 「bとc」 の項を内項、「aとd」 のように外側にある項を外項という。
比例式については、次のことが言える。
「比例式の内項の積と、外項の積は等しい」 a:b = c:d ならば、 ad = bc
<④ 未知数xを含む比と比例の関係>
比例式を応用して、未知数xの値を求めることができる。
比例式a:b=c:dが成立し、 a:b=5:3、c:d=10:xの場合
→ ad=bc → ad=5×x=5x、bc=3×10=30、 5x=30, ∴x=6
2. 方程式論と解析幾何学の歴史的経緯
ダンネマン著『大自然科学史4』
Ⅵ 数学の進歩による自然科学の促進
1. 数学のその後の発展に対しても、自然科学の数学的処理に対しても、このうえなく大きな影響をおよぼしたものに、また、代数学的記号表示と代数学のもっとも重要な部門である、方程式論の発展があった。代数学を国際的速記法に基づいた言葉に仕上げるための最大の進歩は、フランス人のヴィエタ(1540-1603)〔注1〕によって、一般的な大きさを表わすアルファベット文字の採用をもって行われた。
2. 代数学の分野における第二の大きな進歩は、方程式論に関するものであった。ヴィエタはまだ方程式の正の値の根だけが、解をあらわすという考えに従っていた。負根もまた実在すること、一般にすべての方程式は、次数と同じだけの根をもつということは、17世紀の数学者がはじめて認めたところであった。
〔注1〕 フランソワ・ビエト(François Viète)からデカルト座標へ
『はじめからの数学1 幾何学』ジョン・タバク著 青土社 2005年発行
8 解析幾何学の始まり
「 代数学 〔代数方程式論〕 は、ルネサンス期のヨーロッパから、だんだん抽象的になった。特に重要だったのは、専用の代数表記が使われるようになったことだ。フランスの数学者で法律家のフランソワ・ヴィエトが、今日のわれわれが「未知数を x とする」というのを習うのと同じような形で、ある部類の対象を表すために初めて文字を使ったとき、ヴィエトは新たな水準の抽象度に達した。今日ではこれはおなじみのことで、代数学の技法としては過小評価されていることも多いが、その重要性を過大に言うのは難しい。文字を使ってある部類の対象を表すことによって、ヴィエトは、あらゆる種類の論理的関係を表すのに使える、新しい種類の言語を発見していたのだ。ヴィエトはとくに、点、曲線、体積などの幾何学的対象どうしの関係を調べるために使える言語を発見した。それは、数学者の幾何学観を変えるほどの力があった。
しかし、代数と幾何という二つの部門を合体させるには、この二つの別個の部門に、頭の中でかかる「橋」を見つける必要があった。座標がその代数と幾何の間にかかる橋の役目をした。座標によって、幾何学的空間を、代数学的に操作できる数の集合ととらえることができるようになったのだ。では、その座標とは何だろう。
座標とは順序つきの数の組合せのことで、「順序つき」という言葉は、座標( 1, 3 )は( 3, 1 )とは違うことを明瞭にするための言葉だ。座標系を用いれば、数の集合と空間内の点との対応をつけることができる。これは空間にあるすべての点が座標によって特定でき、しかるべき座標の組合せが、空間の点をひとつ特定できるようになっていなければならない。
この現象の最も単純な例は、いわゆる数直線だ。直線上 〔空間図形〕 に、実数の集合と1対1の対応で点が並んでいる。この対応を作図するには、直線上の1点を選んで、その点を0と呼ぶ。0の左にある点は負の数に対応し、0の右にある点は正の数に対応する。次に、0の右にある1点を選んで、これを1の点と呼ぶ。0から1までの距離がこの直線の基準の長さとなる。これで対応関係は決まった。たとえば2に対応する点は、0の右側で、0からの距離が1と0の距離の2倍のところにある。確かにどんな数を与えられても、その組合せで点を特定することができる。この場合、実数と数直線上の点との対応は1対1と言う。直線上のどの点にもひとつの数が決まり、どの数にも対応する点がひとつあるということだ。」
3. 解析幾何学の確立
デカルト(1596-1650)が、方程式論 〔代数方程式論〕 と幾何学を密接に結合して、平面解析幾何学の基礎を築いたとき、代数学のこの部門は、まったく予期しない重要性をもつにいたった。デカルトは、法則にしたがってできた曲線は、一つの方程式に帰着させることができ、その曲線〔空間図形〕のいっさいの性質は、この方程式から計算によって、導き出されることを証明した。いま曲線が一定の条件をみたす、すべての点の幾何学的軌跡とみなすことができるとき、それは法則にしたがってできた曲線である。右の条件をデカルトは二つのたがいに関連する大きさxおよびyであらわし、それを直線で示した。こういう前提に基づく処理方法の根本思想を、彼はつぎのような言葉で言いあらわしている。
“ いまyの直線に順々に無限に多くの異なった大きさを与えると、直線xに対しても、また無限に多くの値が得られる。”
しかし、デカルトがつづいて述べているように、このようにしても、与えられた方程式を満足させる無限に多くの点が定められたとすると、これらの点を連結するときは、その方程式の幾何学的像としての曲線がえられる。
4. 「デカルト革命」への道―「謎・未知数」の解法としての比例・方程式―
デカルト著 『幾何学』 (デカルト著作集<1> 白水社)
第1巻 「問題を解くに役立つ方程式にどのように到達すべきか」
“注意深く反省すれば、事物の間の比例(proportiones)すなわち関係(habitudines)について提起されうるあらゆる問題がいかなる理由で内臓されているか、またこれらの問題がどんな順序で研究されねばならないかを私は理解する。純粋数学という学問全体の要諦はただこの点にのみ含まれている”
“そこで、何らかの問題を解こうとする場合、まず、それがすでに解かれたものと見なし、未知の線もそれ以外の線も含めて、問題を作図するのに必要と思われるすべての線に名を与えるべきである。次に、これら既知の線と未知の線の間に何の区別も設けずに、それらがどのように相互に依存しているかを最も自然に示すような順序に従って難点を調べ上げて、ある同一の量を2つの仕方で表す手段を見いだすようにすべきである。この最後のものは方程式と呼ばれる。
なぜならば、これら2つの仕方の一方の諸項は他方の諸項に等しいからである。そして、仮定した未知の線と同じだけ、このような方程式を見いだすべきである。”
5. 村田全著 『数学と歴史のはざま』 ―代数学と方程式の解法
第1回 代数学と解析学 玉川大学出版部 1969年発行
〔代数学 algebra:「代数」 の名の通り数の代わりに文字を用いて方程式の解法を研究する数学の一分野。 解析学analysis(分析)。 村田全は、ユークリッド幾何学「原論・ストイケイア・Elementa」の翻訳者〕
古典的な数学したがって学校で普通に教えられる数学は、最近こそやや新しい傾向になったけれども、だいたいにおいて数論(算術)、代数、幾何、解析の四つからなると見てよい。ところで「数」学と呼ばれる学問の中に、「数」論や代「数」があるのはよいとして、幾何や解析がはいっているのはどうしたことかと聞かれると、多少不思議な気はしないであろうか。
実を言うと、この問題は単に数学の歴史というよりも、むしろ西欧的学問全体の歴史とともに古く、かつ極めて深遠なものを潜めている。実際これをまともに論ずるということになれば、おそらく数冊の書物を必要とするであろう。ただしここでさしあたって話を進めるためには、今日につながる最も理論的な
“mathematics” (「数学」とはこの言葉の訳語である)が、古代ギリシャにおいて数論と幾何学を止揚した一個の理論的学問として始まったこと、これがやがてルネサンス以後に記号を用いてする解答発見の手段として代数学を取り込んだこと、そしてこの代数学の自己発展の結果として解析学が生まれてきたこと、などを指摘しておけばたりるであろう。
「解析」(analysis〔分析〕)という言葉は、ギリシャの昔からいろいろな意味に使われているが、少なくとも数学の方面では、いま求めているものが得られたと仮定して逆にそのものの性質を探索し、そこからその求めるものを発見するための手がかりをつかもうということと見てよい。
方程式を解くという代数的問題でいえば、解の存在を仮定してその必要条件を求めようというのが「解析」であって、それが本当の解であることを確かめるのは別の段階の仕事(証明)に属する。
そしてルネサンスの代数はもともと、この意味での解析法だったのである。けれども当時の代数が、ただちに今日の代数学のような、理論的で体系的な記号操作の方法になっていたと考えてはならない。
ルネサンスの代数の記号法は個人的かつ流動的な覚え書程度のもので、むしろ暗号のような略記法か、秘儀奥伝めいた技法だったと見ればよく、少なくともギリシャ以来の論証の学としての「数学」には、まだなっていなかった。そこでこの代数によって解の候補者が見つかると、それが本当の解であるという証明はユークリッド幾何学の力をかりて行われていた。そのころ論証という仕事のできる理論体系というと、この幾何学を使う以外に方法はなかったのである。
今日のように、まず記号計算によって解の候補を求め、次に再び記号計算によってその値を式に代入し、それが求める値であることを確かめるといういき方、すなわち操作主義的な記号法というものは、近世数学の最も本質的な創造の一つであって、せいぜい発見的な技法であったルネサンス代数はここに初めて理論的な数学となる。 この創造の原動力はデカルトの思想の中にあって、いわゆる解析幾何学が近世数学の発端と見なされる理由は、この点に関する彼の自覚もあるといってよい。単に幾何学を数式で表わすというだけならば、デカルトの同時代にもフェルマという例があるし、古くはギリシャのアポロニオスにすでにその萌芽がみられるのである。
デカルトの数学上の貢献については、今述べたことに関連して、なお、文字係数を用いて一般公式を表したことや、面積、体積などの「量」もその値をすべて線分の長さで表わすことにして関数概念の形成に道を拓いたことなど、いろいろ注意すべきことがあるが、それらを一括してここで言っておきたいのは、このような記号計算法がやがて 「解析学」 の誕生をうながしたという事情である。
すなわち今述べた事情からもわかるように、代数学はその発端において一つの解析法であり、事実それはある時期まで 「解析 〔分析〕」 の名で呼ばれたのであるが、後にその一部に、今日の微分積分学につながる「無限小解析」という方法(これもまた最初は証明法を後まわしにした発見的手段にすぎぬものであったが)が生まれてきたとき、「解析」の名はこちらに取られてしまったのである。この意味からいうと、代数学は解析学に庇ヒサシを貸して母屋を取られるという、いささか皮肉なことになったといってもよいであろう。
前に「発見的方法」ということについて触れたが、ここではその続きとして発見的方法というものの流れの中に、近世以来の記号法的数学の誕生があり、それが「代数」と「解析」という二つの数学部門の形成につながっているということを注意してみたというわけである。-もっとも、本当の発見的精神の方はこれらの学問の誕生とともに、もう一段高い発見の道を求めて進んでいったにちがいない。しょせん「数学」とはそういう学問なのである。・・・以下、省略・・・・
・・・~ ・・・~ ・・・~
6. 価値方程式の形成過程ー比例と方程式
マルクス著 『経済学批判』
―比例式と方程式― 価値方程式の形成過程
「資本論入門7月号 商品の物神的性格入門・・・その2」 より
関連資料→向坂逸郎著『マルクス経済学の方法』
『経済学批判』 第1章 商品
1. (第12段落) 交換価値においては、個々の個人の労働時間が、直接に一般的労働時間として現われる。そして個別的な労働のこの一般的性格(allgemeine Charakter)が、その労働の社会的性格(gesellschaftlicher Charakter)として現われる。交換価値に表われる労働時間は、個々の人の労働時間である。個々の個人の労働時間ではあるが、他の個々の個人から、区別(Unterschied)されない個々人の、すなわち同一労働を支出する限りでのあらゆる個々の個人の労働時間である。
2. (第14段落) 最後に、人間の社会的関係(die gesellschaftliche Beziehung der Personen)が、いわば逆さに、すなわち、物(Sache)の社会的関係として、表われるというのが交換価値を生む労働の特徴となるのである。交換価値は人間の間の関係である、ということが正しいとすれば、これに対して、物的な外被におおわれた関係である。
同一労働時間を含む商品の二つの使用価値は、同一の交換価値を表わしている。かくて、交換価値は、使用価値の社会的な性質規定性― ( gesellschaftliche
Naturbestimmtheit) として、 すなわち、これらの物としての使用価値に与えられる規定性として表われる。」
3. (第20段落) 一般的労働時間の一定量は、これを表示しているのが1エルレの亜麻布であるが、同時に他のすべての商品の使用価値の無限に多様な分量に実現されている。あらゆる他の商品の使用価値が等量の労働時間を表わしている割合にしたがって、それらの商品の使用価値は、1エルレの亜麻布の等価〔交換価値〕をなしている。
例えば方程式の系列 〔*注1:これら亜麻布の諸方程式が連立方程式を表示している〕
1エルレ 亜麻布 = 1/2ポンド 茶
1エルレ 亜麻布 = 2ポンド コーヒー
1エルレ 亜麻布 = 8ポンド パン
1エルレ 亜麻布 = 6エルレ キャラコ
*1エルレ亜麻布=1/8ポンド茶 + 1/2ポンドコーヒー + 2ポンドパン + 1・1/2エルレキャラコ 〔*注2〕
〔*注2:1エルレ亜麻布=1/8ポンド茶 +・・・、→この右辺の項(茶からキャラコまで)に、1つにまとめた式を作成することにより、連記された「4つの各式」が連立方程式であることを意味表示している〕
・・・以下、省略・・・
4. 比例式・比例関係と方程式―価値方程式の形成
上記の亜麻布・交換価値の連立方程式をよりくわしく見てゆくと、
① 1エルレ亜麻布(A)=1/2ポンド茶(B) → A:B=1:1
② 1エルレ亜麻布(A)=2ポンド コーヒー(C) → A:C=1:1
③ 1エルレ亜麻布(A)=8ポンド パン(D) → A:D=1:1
④ 1エルレ亜麻布(A)=6エルレ キャラコ(E) → A:E=1:1
⑤ ∴ A:B = A:C = A:D = A:E *交換価値の比例式・比例関係の成立
⑥ ∴ 1A=1/4B+1/4C+1/4D+1/4E
⑦ 1Aの「ある実体の量的存在(未知数の交換価値)」がB、C、D、Eのそれぞれの量的な存在量(1/4)として表示されている。
→ 未知数の交換価値(ある実体の量的存在)としての価値方程式の形成
では、古代ギリシャの「比例論」から始めましょう。
>>比例関係と方程式論の歴史的形成過程 <1> >>
>>比例関係と方程式論の歴史的形成過程 <2> >>
― 資本論価値方程式の形成 ―